先日来、歌舞伎ファンにとっては不本意なことで歌舞伎が注目されていますが、この長い歴史を持つ芸能についてジャーナリストの視点で解説した一冊をご紹介します。

 現在活躍する世代よりもう少し上の世代が主に論じられますが、今に連なる系譜の全容を俯瞰できます。

 内容 発行は1994年、時代が昭和から平成になって6年。歌舞伎が新たな時代を生き抜いていくための指針を打ち立てるべく、当時第一線で活躍していた役者の面々について微に入り細にうがって論じていきます。

 最初の3章が役者論。第1章で「平成歌舞伎の担い手たち」と銘打って、尾上菊五郎、市川猿之助(現猿翁)、十二代市川団十郎、坂東玉三郎、片岡孝夫(現仁左衛門)らの持ち味が論じられます。

 著者の筆が冴えるのは「猿之助と歌舞伎のヌーベルバーグ」。 

 三代目市川猿之助こそ、若くして父と祖父という2人の後ろ盾を失い「梨園の孤児」といわれながらもスーパー歌舞伎を打ち立て、若い人に「わからない」「面白くない」「つまらない」といわれる歌舞伎を「わかった」「面白かった」「感動した」に変えていこうと全力で取り組んだ「歌舞伎界の風雲児」。古典を踏まえたうえでの「ケレン」であり、実力が十分であるため、風当たりは強くともやがて皆認めざるを得なくなる…。

 この澤瀉屋の芸、先代の市川猿之助丈の舞台が、私にとっての歌舞伎の魅力の原点です。宙乗り5000回を達成した時のインタビューで、彼方を見晴るかす目をして「歌舞伎とは、瑞々しいエネルギーの燃え上がりです」と言った姿が忘れられません。

 誰かの手で「令和の歌舞伎」が書かれる時にも、長い伝統の上に立ち時代の大きな花を咲かせる第一級のエンタテイメントであり続けてほしいと、一歌舞伎ファンとして祈る思いです。(里)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA