フランドール様式のれんが塀と岩崎さん

 御坊市薗、新町地区にある、岩崎章一さん(73)=横浜市在住=所有の屋敷のれんが塀が、全国でも非常に数少ないフランドール様式(フランス式)であることが分かった。明治時代に岩崎さんの曾祖父が建立したもので、世界遺産になっている群馬県の富岡製糸場と同じ様式の組み方。岩崎さんは「個人の枠を超えた価値を感じます」と話している。

 岩崎家は300年ほど前から日高地方に在住。「西川屋」の屋号で、江戸時代末期の3、4代目は紀州藩の御用飛脚、5代目は紀州藩に出入りする金貸し業の商人だったという。屋敷は6代目が明治24年(1891)に建立。れんが塀は新町の岩崎さん宅の庭の西側に造られ、今も約10㍍の長さで残されている。上部には瓦屋根を配した凝った造り。御坊市のホームページ内にある「寺内町散策マップ」にも、歴史あるれんが塀として紹介されている。 

 屋敷には現在、誰も住んでおらず、岩崎さんは年に2回ほど帰郷して雑草の除去など家の手入れを行っている。おととしの秋、岩崎さんが草を引いていると見知らぬ人がれんが塀を熱心に調べてはメモを取っていた。「何かの調査ですか」と尋ねると、市のホームページを見て来たといい、「この塀は非常に珍しいフランドール様式。全国でも10カ所ほどしかない」と興奮した様子だった。岩崎さんはそれから興味を持って全国のれんが塀について調べ、同じ様式のものは世界遺産になっている群馬県の富岡製糸場などわずかしかないことを知った。

 フランドール様式は、横一列にれんがの長手(長いサイズ)と小口(短いサイズ)を交互に積む様式。すべての列でその積み方をする。見た目が美しく、明治初期の建造物に用いられたが、その後はより丈夫なイギリス様式(長手だけの列、小口だけの列を交互に積む)が主流になり、現在残されているれんが塀は多くがイギリス様式。小口のみを使ったドイツ様式がそれに次ぎ、フランドール様式は十指に満たないという。横須賀市の猿島にある要塞跡もフランドール様式で、その説明文には「この要塞跡も含めて全国で4件が確認されているのみ」とある。

 実際に岩崎さん宅のれんが塀を視察した和歌山県建築士会副会長の中西重裕さんは、「公のものではなく、個人の屋敷と一体となったフランドール様式のれんが塀は他に見たことがない。アーチ状の入り口部分など細かい細工で、技術的にも高度。れんがの部分だけでなく、礎石の堅固な造りも素晴らしい。大きな通りに面したところでなく、路地に面してさりげなくあるのが面白い。貴重な存在で、非常に文化的価値の高いものだと思う」と話している。

 岩崎さんは「あまり関心はなかったのですが、調べてみて価値を知ると、個人の域を超えた財産と思いました。猿島のれんが塀はPRして観光資源となっていますが、どなたかにお譲りして生かしていただければとの希望を持っています」と話している。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA