イランで生まれ、幼少期をエジプトで過ごし、小学4年生からは大阪で育ち、2019年からコロナ禍の3年間をカナダで暮らし、現在は東京に拠点を置いて活動中の著者。本作は犬が好きな家族の成長を描いた初期の作品で、西條奈加の作品を読もうと何も考えずネットで取り寄せたところ、間違えて買ってしまったのですが、日常の小さな出来事をしつこいほど積み重ねながら、「ちょっとしんどいな…」と思い始めたあたりから時間の流れる速さが上がったように感じました。
あらすじ ヒーローだった兄ちゃんは、20歳と4カ月で死んでしまった。超美形なのにケンカがめっぽう強く、破天荒な妹ミキは内にこもり、母は酒に溺れ、若いころの姿が見る影もなく肥満化し、僕も実家を離れて東京の大学に入った。あとは、ミキが拾ってきたとき、しっぽにピンクの花びらがついていたから「サクラ」と名づけられた犬が一匹。そんなある年の暮れ、僕は久しぶりに実家に帰った。手にはスーパーのチラシの裏に、薄い鉛筆で書かれた家出中の父からの手紙が握られていた。
どんなに幸せそうな家族にも、どれほど順風満帆な人生を歩んでいるように見える人にも、人にいえぬ悩みや秘密はあるもので、理不尽な不幸や悲しみはある日突然、降りかかります。それはときに巨大地震のような激しさで、津波のようなスピードとパワーを伴って。人は大切なものを失って、初めてそれが自分にどれほど重要だったかを知り、その痛みを乗り越えて強くなり、成長していくものだと思います。
おそらく多くの方がそうだと思いますが、この5人と一匹の家族の特異なキャラクターと関係性にはちょっと引いてしまう部分も多々あります。しかしそこには、常に互いを気にかけ、小さな喜びも深い悲しみも自分ごととして分け合える普遍の家族の愛が流れています。そこに愛はあるんか。読み終わったあと、大手消費者金融のCMコピーが頭に流れました。(静)