先日、御坊市の藤田小学校の平和学習で、原爆体験伝承者の安斎陽子さんから広島原爆について聞いた。原爆体験伝承者とは実際の被爆体験者からの話を受け継いで伝える人のことで、広島市や東京の国立市などで養成されている。安斎さんは国立市で養成を受けた伝承者で、この日は広島に原爆投下された時に中学3年だった故平田忠道さんの体験を語った。

 東京生まれだった平田さんが広島に移り住んだところから始まり、疎開などで離れ離れに暮らすことになった家族のこと、原爆投下の当日、工場に行く平田さんを見送った母と3歳の弟のことなど、平田さんから受け継いだ話を詳細に紹介。原爆投下後、母たちが住む家に平田さんが向かう途中、全身火傷で水を欲しがる兵隊に、当時は水を渡せば死んでしまうと言われたため断ったが、どのみち助かる可能性は低く渡すべきだったと悔やんだこと、最初は驚いた焼死体にも慣れていき普通の光景になっていったことなど、原爆後の街の様子を生々しく話した。そして見つからない母と弟を探し続ける平田さんがどんなに不安で寂しい思いをしたかなどを、児童たちに想像させながら語りかけた。安斎さんの話はわかりやすく、原爆の恐ろしさも子どもたちの心に響いたことだろう。

 筆者は数年前まで毎年夏に、戦争体験者の取材を担当していたが、年々体験者を探すのが難しくなり、また過去に取材した方も亡くなってきている。戦後78年が経ち、戦争体験者が年々少なくなってきており、いずれはいなくなってしまう。しかし、安斎さんのような伝承者がいる限り、戦争の恐ろしさは風化されることなく語り継がれる。子どもたちが熱心に聞き入る姿を見て感じた。(城)