先週19日に発表された、第169回芥川賞の候補作。著者の児玉氏は、モーニング娘。などが所属する「ハロー!プロジェクト」のアイドルに大学生から作詞提供をしており、心に刺さる文学的表現が魅力。私もファンの一人で、彼女の詞に共感してきました。小説はジュニアアイドルのグレーな部分、児童ポルノなどがテーマとなっており、ファンならずともきっと考えさせられる内容です。

 物語 主人公の雪那(せつな)は、ジュニアアイドルとして活動していた。同じ事務所の美砂乃ちゃんからは「ゆき」と呼ばれ、自分を「みさ」と呼んで欲しいと言われるも、中々そう呼べない。美砂乃ちゃんは定期的に撮影会に参加しており、そこでは水着になってアイスを渡されたりしていた。そして雪那も一度だけ撮影会に参加し、水着姿の写真を撮られたことがあった。

 中学生になっても活動を続けていた雪那は、同級生から嫌がらせを受け、孤独になってしまう。そんな中、登場するキャラクターの名前を自分の名前に変換できるケータイ小説「夢小説」にのめり込む。キャラクターの名前をわざと設定せず、空欄にすると表示される〈##NAME##〉のままで読み進めるのが好きだった。

 やがてジュニアアイドルを辞め大学生になった雪那。就職活動をしている時に夢小説の作者が児童ポルノ禁止法違反で逮捕されたと知る。押収された物には複数のジュニアアイドルのイメージビデオ、画像や動画があった。雪那はかつての自分と向き合うようになり…。

 かつての自分の姿がデジタルタトゥーとして残り、未来への足かせになってしまう。現代社会ならではの〝闇〟などと言われますが、それが本当に闇なのかは本人にしか分からない部分もある。その部分とどう向き合うか。

 ラスト、主人公が選んだ選択に、このタイトルの意味や整合性がピタッとハマり、深く感心させられました。(鞘)