今回紹介するのはゲームシナリオライターで小説家でもある桃野雑派の作品「星くずの殺人」。

 内容は、民間の旅行会社による、一人3000万円という格安の宇宙旅行が実現し、広告とモニターを兼ねた初のツアーが行われた。参加客は多数の応募の中から抽選で選ばれた6人。加えて機長と副機長兼添乗員の計8人が、高度320㌔の宇宙ホテル「星くず」へと旅立ったのだった。

 無事、星くずに到着した参加者たちだったが、早々に事件が発生する。星くずの無重力エリアで機長が首を吊って死んでいるのが発見された。当初は自殺と思われたが、そこは無重力の世界、首吊り自殺には最も適さない場所だ。

 会社の指示に従いツアーを進める添乗員の土師穂稀(はせ・ほまれ)。機長死亡を知った参加者たちの中にもツアーの続行を求める声があった。そんな中、ホテルのスタッフたちが脱出ポッドで逃亡してしまい、さらに通信の途絶、電気系統機器の故障、第二の殺人へと、次から次へと事態が進展していく。

 宇宙ホテルという新しい舞台をテーマにしたクローズドサークル。まず、最初の機長の死が自殺なのか他殺なのかひっかかる。参加者たちは抽選で選ばれた接点のない者同士のため、なぜ殺人事件が起こるのか、そしてなぜ宇宙で実行するのかも気になるところ。地上の会社から届いた謎のメッセージも今後の展開を面白くさせる。宇宙がテーマなだけあって科学を取り扱った内容も多く、少し難しいところもあったが、ミステリーとして十分楽しめた。 それにしても舞台の宇宙ホテル、いつか実現するかもしれないが、そうなれば宇宙を舞台にしたミステリー作品も増えるだろう。地上とは異なる条件のもと、トリックも面白いものがでてきそうだ。さらには月、火星、または海底と人類のフィールドが広がれば、ミステリーの世界も広がっていくのだろう。(城)