先週に続き、上岡龍太郎さんへの追悼を込めて代表的番組の解説本をご紹介します。番組を立ち上げたプロデューサー自身による、青春グラフィティの要素も含むドキュメンタリーです。

 内容 朝日放送に勤務し、若手から中堅の域に達してきた著者に、局から新番組制作の話がきた。脳裏に浮かんだのは、上岡龍太郎。上岡さんの、一瞬を切り取る批評家の才能を生かして1本の番組にしたい。そのためにどんな形が必要か。

 視聴者からの依頼に基づいて、探しに行って取材し、上岡さんに報告する。この形はどうだろう。これを一体どう表現すればいいか。
「『あのぅ』石原君はボソッと言った。『調べるんは、探偵の仕事ですけどねぇ』そのとき、まるで雷が落ちたように、頭脳を貫く衝撃が走った。一瞬のうちに企画の全体像がひらめいたのである。私は夢中で机をたたき、『それや!』と叫んでいた」

 かくして「探偵! ナイトスクープ」という名の、松本人志3代目局長まで35年に及ぶ長寿番組の船出が決まる。

 著者は若い気鋭のスタッフを集め、探偵の人選を行い、テーマ曲を歌手の円広志に依頼。出来上がってきたのが「ハートスランプ二人ぼっち」。円さんはCM入りのジングルも作曲してくれた。5秒でいいと言っていたのに、「♪だからなんたってとまらない、ナ~イトスク~プ」と15秒分もある。採用されたのは5秒分の「♪ナ~イトスク~プ」だった。

 最初は、「報道番組ではできないスクープを」と、「国道1号線三重駐車の謎」など社会派のネタが多く、新進のディレクター達が競い合って個性あふれるVTRをつくる。しかし視聴率は1ケタ台が多く、毎週のように企画会議は白熱。やがて「依頼者の思い入れの強いネタはそれだけで面白い」ことに気づき、パワフルな素人を前面に出して面白く料理することで傑作VTRが生まれていく。しばらくすると、視聴率はうなぎのぼりを始める…。

 私自身が最も印象的だったのは、2代目西田敏行局長になって間もない頃ですが、「30代の女性はピンクレディーの『UFO』がかかると完璧に踊れる、30代の男性はヌンチャクを渡して『燃えよドラゴン』のテーマがかかると『アチョー!』と叫んで巧みに振り回す」という法則の検証。これが100%その通りであることが実証されたのは実に面白かった(今なら50代。もちろん私も踊れます)。

 本書では作り手の立場からの視点が興味深く、立ち上げの前後など草創期の熱と高揚感を備えた青春グラフィティの様相もあります。

 ディレクターの一人は語ります。

「『そこまでしなくても!』と依頼者が言う。『何言うてる!』と、アホの探偵は怒り出すんです。そこで依頼者の殻が『パーン』と弾ける。そのとたん、全員アホになって走り出すんです」。   (里)

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