今回紹介するのは夕木春央の「方舟」。「週刊文春ミステリーベスト10」&「MRC大賞2022」をダブル受賞した作品だ。

 内容は、主人公の越野柊一が従兄弟の篠田翔太郎、大学時代のサークル仲間の5人の7人で、メンバーの一人、西村裕哉が森の中で見つけた地下の巨大施設に向かう。「方舟」と名付けられた地下建築は、地下3階、部屋もたくさんある。また賞味期限は切れているものの水と食料があり、発電機も動かすことができた。そこに道に迷ったという矢崎幸太郎と妻、子の3人も加わり、10人で夜を明かすこととなった。

 そんな中、大地震が発生し、施設の入り口を大岩が塞いでしまった。この大岩はもともと入り口を塞ぐように用意されていたもので、地下2階で機械を操作することで地下2階に落とすことができるが、操作する人は閉じ込められ、地下1階方向へはいけなくなる。地下3階には外との出入り口があるが、3階は完全に浸水している。

 誰か1人が生贄にならなければならない。そんな状況の中、西村裕哉が何者かに殺害される。その後も起こる殺人。犯人こそ地下に残るべきという考えが広がる中、主人公と探偵役の篠田翔太郎は犯人に特定に動き出す。

 地下建築という施設が舞台のクローズドサークル物。誰か一人が犠牲にならなければいけないなか、殺人を起こせば、自身が残る確率が上がってしまう。また殺し方にも疑問が残り、独自の行動をとる矢崎親子3人の正体も気になるところだ。

 物語のテンポがよく、たいくつせず読めたものの、そこまで引き込まれることはなかった。後半も「こんなものか」と思っていた中、衝撃の展開に。帯にも「この衝撃は一生もの」と書かれていたが、まさにその通り。ラストで台無しになる作品はあるが、ラストでここまで引き込まれる作品は数少ない。ぜひネタバレを見ることなく読んでもらいたい。        (城)

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