ウクライナ侵攻開始から9カ月。状況は日々変わっていますが、根本的な問題は一貫して世界に提示されています。漫画界の枠を超え注目される論客小林よしのりさんが警鐘を乱打する一冊をご紹介します。

 内容 2・3章は日本とロシア(ソ連)、4~6章はウクライナとロシア(ソ連)の関わりの歴史。ウクライナは長年弾圧され、20世紀前半には2度の人為的な飢饉で推定450万人が犠牲に。スターリン時代にはウクライナの独立運動家や作家・芸術家らが虐殺された。1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故でソ連への不信が顕在化。ウクライナ語復権の動きも高まり、長らく禁止されていた青と黄の民族国旗も掲げられた。91年にウクライナは独立を宣言。だが親ロ派の存在からウクライナの政治は混迷の道を歩む。2014年、ロシアはクリミア半島併合を一方的に宣言。この時、国際社会は結果的に侵略による現状変更を容認。そして2022年、ロシアはウクライナ全土を攻撃。だがウクライナ人にはクリミア侵攻以降、国への揺るぎない強い思いが育っていた。「今行われていることが、実は300年に及んだロシアの支配に対する独立戦争だともいえるのではないか」(第6章)

 弱肉強食の「力の支配」が2度の世界大戦をもたらし「核の脅威」が残された。これ以上力の支配が続けば行き着くところは核戦争、人類滅亡。だから人類は「力の支配」に替わり「法の支配」を求め、70年以上も国際法による秩序を構築する努力を重ねてきた。ロシアの蛮行がまかり通り国際法が完全に無力となったら、次は中国が台湾に侵攻するだろう。「ごーまんかましてよかですか?」ロシアのやっていることは人類に対する攻撃である! これは「人類対ロシア」の戦いであり、我々は決して負けるわけにはいかないのである!(第8章)

 「ロシアは人類が辛うじて積み重ねてきた国際法秩序を根本から崩そうとしている」

 私は2月24日からというもの、腹の底からのものすごい怒りを抱えていますが、その根源的な理由は本書のこの一言に尽きます。イラク戦争時、米国を中心とする連合軍は誤爆による民間人死傷について謝罪。「第2次大戦時とは明らかに時代が変わっている」と強い印象を受けました。今回の侵攻はそうした歩みを白紙に戻す、どころか人類がようやく終わらせたはずの「力が全て」の時代に逆戻りさせようとする行為に他なりません。言いたいことが多すぎて到底スペースが足りませんが、本書には問題の本質が明確に喝破されています。

 ウクライナ国旗が長年掲げるのを禁止されていた歴史は本書で初めて知りました。ウィキペディアには「ウクライナの国旗」という項目があり、あの旗の色彩そのままの美しく雄大な風景写真が掲載されています。 (里)