11月は和歌山県の誕生日がある月。テーマは「和歌山県」とします。

 「百寺巡礼 関西」(五木寛之著、講談社文庫)

 多彩な著作で活躍する著者のライフワークの一つ「百寺巡礼」。第6巻「関西」には県内の4寺が登場し、道成寺の下りを紹介。

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 この寺の名前はかなり広く知られている。ここに来る前に「今度道成寺へ行くことになってね」というと、例外なく「えっ、あの道成寺ですか」という言葉が返ってきたほどだ。(略)失礼ながら、天下に知られた道成寺というので、もっと庶民的でにぎやかな寺だろう、と思い込んでいた。しかし実際にきてみると、むしろ典雅で趣きのある寺という印象を受けるのだ。この寺のたたずまいには、歌舞伎の「京鹿子娘道成寺」ではなく、能の「道成寺」のほうがしっくりくるのではないか。(略)とくに、三重塔はその古びた感じがとてもいい。見る角度によって塔の屋根と本堂の屋根の甍とがいい具合に重なり合って、絶妙のハーモニーを醸しだしている。なんとなく音楽的でさえある。(略)ひとつの寺が成り立つとき、信仰というものが中心にあることはもちろんである。しかし、道成寺はその信仰の入口へ、物語によって人びとを導いている。