本紙の連載小説、熊谷達也著「明日へのペダル」が完結。新しく、歴史小説「パシヨン」が始まっている。著者は川越宗一。樺太アイヌの指導者ヤヨマネフク、日本名山辺安之助を描いた「熱源」が昨年の直木賞を受賞した◆今度の新連載は400年ほど昔の江戸初期が舞台。主人公はマンショ小西。江戸時代最後の日本人司祭である。筆者は現代小説も歴史小説も同じくらい好きだが、キリシタンを主題とした作品はこれまで遠藤周作の「女の一生」以外には読んだことがない。なじみのない登場人物に正直とまどった。最初は天正遣欧少年使節の伊東マンショと混同しそうになったが、まったく別人である。キリシタン大名小西行長の孫というところでようやく取っ掛かりを見つけた気がしたが、小西行長のこともよくは知らない。調べてみると、戦国時代の紀州攻めに加わっていたので当県と関係がないこともない。その後、関ヶ原で西軍に味方したため処刑された◆その孫、マンショ小西はかなり波乱万丈の人生を送っている。マカオに渡り、ローマに渡ってカトリックの司祭になってから日本に帰って来て島原の乱に遭遇する。キリシタンが潜伏せざるを得ない時代の始まりの時期に活躍した人物である◆「歴史上の人物」と一口にいっても一体何千人、何万人いるのか見当もつかないが、誰もが名を知っている人物はほんの一握りだ。知られざる人物の事績を物語に編んで教えてくれるのは、気の遠くなるような歴史の大河の中から、キラリと光る砂を一粒見つけて取り出し、示してくれるような作業かもしれない◆主人公は、序章では最後にしか登場しない。第一章に入ると、快活な少年時代が描かれるという。未知の人物の活躍を、読者の立場で楽しんでいきたい。  (里)