世の中は光であふれている。暗い夜道も防犯上、街灯が設置され、常に持つ携帯電話も暗闇の中では貴重な明かりとなる。花火やネオンなど美しい光に多くの人は引き寄せられる。光は人の生活にとって欠かせない、あって当たり前、なくては不便なもの。昨年9月の台風による長期停電で、明かりの大切さが身にしみた人も多いだろう。そんな人にとって貴重な光を、大嫌いな生き物がいる。ウミガメである。母ガメは上陸しても、光があると産卵せずに海に引き返してしまう。携帯電話の画面のわずかな光でもだ。

 では、みなべ町千里の浜はなぜ、数ある中でも本州最大のウミガメの産卵地なのか。先日、日本ウミガメ協議会の松沢慶将会長が世界農業遺産に認定されている梅システムが大きく関係していることを教えてくれた。千里の浜の背後は梅畑がある山で、周りに明かりがこぼれる民家はない。梅は町の基幹産業として確立されていたことから、他地域のように海岸線の好立地でも梅畑がリゾート開発されることがなかったことなど、さまざまな要因が重なって光のない環境が継続されている、まさに「奇跡の浜」といわれていた。もちろん、保護活動に熱心な人がいたことが大きいのは言うまでもないが。

 梅産業という日常の営みが、自然とウミガメにとっていい環境を守っていた。ウミガメはふ化して海に帰り、再び同じ浜に産卵に戻ってくるまで約40年。ことし産まれた子ガメがまた千里で産卵できるよう、いまの環境を守り、次の世代に引き継ぐことが重要。梅システムならぬ亀システムはすでに確立されている。町民一人一人がシステムを心の中で認定し、ウミガメにとって優しい行動を継続していってほしい。(片)