大国アメリカに戦いを挑み、心身とも完膚なきまでに叩きのめされた昭和の戦争を経て73年。日本は防衛、外交でも常に他国の顔色をうかがいながら、ひたすら低姿勢を貫いてきた。昭和20年8月15日を境に、国家の体質は180度変わった。

 劇作家の山崎正和氏は、戦後の日本は国民が「偉大さ」を誇りとせず、目指そうともしない点で際立つ国であるという。平成の世の終わりに際し、「一国の最高権威(天皇陛下)がいささかの虚栄も張らず、ご自身の老いと疲れを暗に自認されたうえで退位されるという人間として自然体で振る舞われたことが、この国の姿にとって象徴的だった」。

 戦後生まれにはとくに違和感のない意見だが、戦前の日本はどうだったか。自主独立を守るため富国強兵を進め、日清、日露戦争に勝ち、第一次大戦でも勝利し、大陸に手を伸ばした。そのころ、国の偉大さと強さを誇る軍の暴走を誰も止められなかった。

 全世界で8500万人が犠牲となった地獄を経験し、冷戦、地域紛争、テロなど殺戮を繰り返しながら、世界はようやく命と環境、人権を守るという普遍的な国際秩序を構築した。しかし、人間の欲望はとどまるところを知らない。

 米国のトランプ大統領、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩労働党委員長。この3人はいずれも自国の偉大さを誇り、他国に対して強気で独善的な態度をとり続ける。対する安倍首相は憲法改正提案を視野に、党総裁選出馬を表明した。

 国の偉大さとは何か。強さを誇示せず、他者への思いやり、慎み深さこそが日本人が世界に誇れる美点でもある。総裁選は目指す日本の国の姿を示し、改憲の中身とその後の十分な説明、議論を。(静)