イソップ寓話のオオカミ少年では、羊飼いの少年が「オオカミが来た」とうそをつく。村人たちは武器を持って戦おうとするが、徒労に終わる。何度も繰り返すうちに村人たちは信用しなくなり、本当にオオカミが来て村の羊が全て食べられた、というものである。

 嘘をつき続けると、本当のことを言っても信じてもらえなくなるという教訓だが、見方を変えてみよう。村の羊、おそらく村人たちが飼育していた羊がオオカミに食べられたのは、だれが悪いのか。当然、うそをついた少年は悪いが、村人にも責任があるのではないか。例えば、日頃からオオカミ襲来に対する万全の対策を取っていなかったこと、少年の情報をうのみにするだけでなく、うそか本当か自分で見極める目や判断材料を持っていなかったことなど。うそをつく少年を周りの大人が正しい方向に導いてやることなく放っておいたのも問題だ。

 近年、よく似たような話で心配なことがある。先日の西日本豪雨や西進の珍台風では、甚大な被害が出たところもあるが、本県は幸いにも被害が軽かった。ただ、大安売りとでも言わんばかりに、各地域で警報や避難情報を発令。猛暑の中、そのたびに食料などを持って避難所へ行く高齢者らは大変である。結果的に被害が少なかったのはいいが、連続するとオオカミ少年の話になりかねない。

 気象庁や自治体をオオカミ少年呼ばわりするつもりは毛頭ない。予報技術を一段と向上させ、的確な情報の提供を望むだけある。その上でやはり住民も災害とどう向き合い、いつ避難すべきタイミングなのかなど、自ら判断、行動できる材料をそろえておくことが大切である。(吉)