マイナンバーをめぐり、全国的に送付のトラブルや詐欺が続発している。各種公的機関の個人の管理を番号で一元化することで、それぞれの事務手続きがスムーズになる反面、個人情報の流出とそれによる犯罪の多様化はすでに始まっている。
 個人情報とは、名前、住所、年齢、職業のほか、出身地や学歴、職歴、電話番号、顔写真も含む。マスコミはこの個人情報が飯の種で、ニュースの当事者には電話番号や職歴はともかく、一つひとつを聞き、紙面や電波を通じて拡散する。
 事件事故では、当事者の名前も住所も伏せられる場合がある。事実を報じることの公益性や社会的影響、名前を出される側の痛み等をかんがみ、警察が実名で発表したものも、各報道機関によって実名か匿名か判断が分かれる。たとえば家族間の事件。
 重度の認知症の親を殺害した息子、育児疲れでわが子を殺害した母親。罪はいずれも被害者が他人の場合と同じ「殺人」だが、マスコミは取材情報を基に、犯行に至るまでの経緯にあわれむべき点があると判断、匿名にすることがある。司法の判断も、日本は明らかに諸外国より量刑が軽いとの指摘もある。
 一方、通り魔的な事件の場合、容疑者の名前が伏せられたとしても、「過去に精神科への受診歴がある」という情報がつく。このひとことで受け手は妙に了解してしまうが、これが精神・神経科領域の患者と家族の苦しみを増幅させている罪ははかりしれない。
 このすっきり感は、病院の外の自分と中の相手との距離を感じる安心からか。しかし、現実に両者を隔てる明確な壁はどこにも存在しない。無知といらぬ情報が病気への差別を助長するこの管理社会こそ、目に見えぬ塀に囲まれた病院の中ではないか。 (静