「開運 なんでも鑑定団」(テレビ東京系)が好きでよく見ていた。渋い備前焼、豪華な薩摩焼、優しい色合の萩焼など名器の産地に和歌山県はなく、限られた土地のものと思っていた
 
 だが本紙の地元御坊市にも、知る人ぞ知る焼き物があった。江戸中期、わずか10年ほどの宝暦年間に存在した「善妙寺焼」(紀伊名所図会では「善明寺焼」)。市内島の善妙寺六代住職玄了師が手がけた。1月に美浜町の佐々木正至さんから「善妙寺焼と思われる花器がある」と聞き、結果的には本物の可能性は低いようだということになったが、取材の過程で御坊歴史民俗資料館館長の中村貞史さんからいろいろ教わった。昭和13年発行「茶わん」(寶雲舎)によると「素朴にして雅趣に富んだ作品」で「当地方の茶人或いは愛陶者の間で最も珍器とされている」。特に陶土を籠に編んで精巧に焼き上げたものは逸品として珍重される。紀州藩主に献上した記録もある
 努力したが本物には出会えず、本当に幻の品だと実感。以前「あとりえ訪問記」に出て下さった中野孝次さんが善妙寺焼の復活に取り組んでいると聞いていたので、この機会に特集で紹介させて頂いた。実際に陶土を編み込み、壊れないよう焼くのは相当難しいという
 善妙寺焼はこの玄了さん一代限りのようだが、その一人の技術と感性のおかげで御坊に「和歌山県で2番目に古い幻の焼き物」という文化が生まれた。歴史を形づくるのは有名無名にかかわらず一人一人の人間だと感じ入る
 お殿様に献上するほどの腕前をどのように身につけ、後世の茶人達が好んだ味わいはどのような人柄から生まれたのか、想像をかき立てられる。同時代人であれば取材を申し込みたいところであった。 (里)