作家の落合恵子さんの市民教養講座を取材した。記事では書ききれなかったエピソードを紹介したい
 ◆結婚する前に戦争で父の行方がわからなくなったため1人で落合さんを産み育てた母は、幼くして父親を亡くし13歳の時から働いて3人の妹を進学させた人。「人間にとって何が大切かいつも考えることが、学校では学べない大事なこと」だと落合さんに教えてくれた
 ◆講演で「たてがみ」と表現された落合さんのヘアスタイルは母の介護をしている時、『手入れが楽』と決めた。その頃、母はすでに医師から「もう言葉も何も分からなくなっています」と言われていたが、落合さんは母に「見てごらん」と新しい髪を見せた。 母は子どものような目でじっと落合さんを見つめ、「ふふふ...」と笑った。「私にとって大きな『ふふふ』でした」と言う。何も分からないとデータが示していても「楽しそうな空気を感じることはきっとできるはず」と落合さんは信じた。最期に「お母さんありがとう、大好き」の言葉を贈り、「私、お母さんの娘でよかった」というと、母は最後の力を振り絞るようにまぶたを何度もパチパチと動かしたという
 ◆そのお気に入りの髪が逆立っている表紙絵の近著が「てんつく怒髪」。3・11以降のさまざまなことへの怒りなどが述べられている。「『怒ってどうなる』というさめた声には、結果が予測できる時だけ怒るなんて『そんなケチな怒りならいらない』と言いたい」と言い放ち、しかし「てんつく」は「天衝く」と同時に祭り囃子の「テンツク」でもあると、ユーモアも忘れない
 ◆ふわりと広がる銀の「たてがみ」は、毅然として闘いながら、それでも明るさは失わない姿勢の象徴のようにも思える。  (里)