羊飼いの少年が、退屈しのぎに「オオカミが出た」と嘘をついて騒ぎを起こす。大人たちはだまされて武器を持って来るが、そこにはオオカミはおらず徒労に終わる。少年が繰り返し嘘をついたので、大人たちは本当にオオカミが現れても誰も救援に行かなかった。そのため、村の羊はすべてオオカミに食べられた。イソップ童話の中でも代表的な「羊飼いと狼」の話である。
 去る12・13日に東日本大震災の被災地、宮城県気仙沼市を支援活動で訪れた紀州梅の郷救助隊の尾崎剛通隊長は「今回の災害ではオオカミ少年的な油断が住民にあったのではないか」という。実際に被災地では以前からも津波警報が何度か発令されていたが、被害には至っていなかったからだ。大震災時の時も津波の第1波が押し寄せ、高台に避難した住民らも引き波で水位が下がると自宅に帰った人もいた。しかし、その人たちは2度と戻って来ることはなかったという。紀伊半島でも発生直後は大津波警報が発令されていたが、筆者自身も大きな被害が出るとは思ってもいなかったし、想像を超える津波はなかった。それが油断である。
 紀伊半島沖で発生が予想されている東南海・南海地震で、今回の震災規模の津波が押し寄せて来ないとも限らない。それに対するハード面の防災対策は難しい。人間は自然の力には到底及ばない。どんなに丈夫な防波堤やどんなに揺れに強い施設をつくっても効果を発揮できない場合もあるが、すぐに高台に逃げるという認識を強く持つことで人的な被害を抑えられるのではなかろうか。オオカミが襲って来た時は、その情報を疑うことなく、まずは逃げ出すことだ。     (雄)