昨年末、テレビや新聞で「2024年は激動の1年となる」という国際社会の展望をよく見聞きしました。それはまぁいつものことですが、今年はたしかに日本にとって激動の1年になりそうな様相で、なかでも米国大統領選の行方(トランプ再選)が自国の政治よりも気になっています。

 ウクライナとロシアの戦争がもうすぐ丸2年を迎え、イスラエルとハマスの紛争も同様にまだまだ終わりそうにありません。どちらも米国の支援の大きさ、介入の仕方しだいで流れは大きく変わる。ウクライナとロシアの戦争は民主主義と権威主義、自由と独裁の戦いであり、ここでウクライナが負けてしまえば力による現状変更、他国の侵略が悪いことではないという狂った世の中に変わってしまいます。一方のイスラエルとパレスチナの対立については、イスラエル一色の共和党、中東和平に向けた介入におよび腰なバイデン大統領(民主党)のどちらが勝っても、問題解決への前進は期待できそうにありません。

 本書は外務省で長年、中東・アラビア語専門の外交官として、天皇陛下や総理、PLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長らの通訳を務めた著者が、昨年10月に始まったイスラエルとハマスの戦いのなかで書き上げました。食い違うイスラエルとパレスチナの主張、憎しみの原点からオスロ合意を経て和平への光が差したキャンプ・デービッド・サミット、聖地をめぐる暴力と報復、米国歴代大統領の温度差…。イスラエルを擁護する米国の同盟国の日本人にとって、国内メディアの報道ではなかなか伝わらないパレスチナ側の主張、イスラエルによる安全保障の名の下のパレスチナ自治区への入植(占領)、イスラエルの過剰な報復(空爆)など、外交官としての自身の経験から今次のハマスとの戦いに連綿とつながる怒りと暴力の連鎖、エスカレーションの理由と背景を解き示してくれます。(静)