今回紹介するのは小川哲の「君のクイズ」。2023年に本屋大賞にノミネートされ6位に選出されたほか、同年第76回日本推理作家協会賞長編、連作短編集部門を受賞した。

 物語はクイズ王を決めるテレビ番組「Q―1グランプリ」で決勝戦に挑む主人公の三島玲央。対戦相手の本庄絆とポイントの取り合いが続き、いよいよラスト1問となり、ポイントを制したほうが王者となる。静寂の中、司会者の「問題――」の声が響いた瞬間、パァンと早押しボタンが押される。押したのは対戦相手だが、すでに2問間違えており、ここで不正解なら失格で主人公の勝利が決まる。「やっちまったな」と同情する三島を横目に回答する対戦相手。しばらくスタッフたちが困惑した後、正解音が響き渡る。対戦相手の本庄が王者となり、番組はそのまま終了する。納得のいかない三島やほかの出場者たち。ヤラセではないかとスタッフに詰め寄るが明確な回答は得られない。数日後も曖昧な返事しかなく本庄も連絡が取れない。当日の問題を振り返る中、主人公はあることに気づいてしまう。

 読み進むにつれて主人公と気持ちがシンクロし、だんだんと謎が解けて行き、思いもよらない結末につながっていく。そして、何よりクイズについて丁寧に描かれているところが面白い。特にクイズは知識でないと指摘しており、そのことがよくわかる。文中に出てくるが、出題が「イベント――」の時点で正解がわかる。多くの問題をこなしている出場者にとってイベントの後に続く言葉がわかれば答えにたどり着ける。そして注目するのはボタンを押した瞬間に、問題文を読む司会者から発せられそうになった次の言葉や口の形、息の使い方。それらから答えを導き出すというので、クイズの世界はとても常人が入り込める余地がないことを思い知らされる。内容ももちろん面白いが、そんなクイズの世界の厳しさを知れたことも収穫の一つだ。(城)