著者の澤村伊智さんは、2015年に「ぼぎわんが、来る」(受賞時のタイトルは「ぼぎわん」)で第22回ホラー小説大賞〈大賞〉を受賞しデビュー。2019年、「学校は死の匂い」(角川ホラー文庫「などらきの首」所収)で、第72回日本推理作家協会賞「短編部門」受賞。他の著作に「ずうのめ人形」「などらきの首」「ひとんち」「予言の島」などがあります。本作品は、長編「ばくうどの悪夢」も絶好調!書き下ろし中篇「さえづちの眼」を含む3篇が収録された、比嘉姉妹シリーズ初の中篇集。

 「母と」 真琴のもとに助けを求めにやってきた杏という少女。彼女が暮らす民間の更生施設・鎌田ハウスに「何か」が入り込み、乗っ取られ、結果的に住人たちがおかしくなってしまったらしい。杏を救うために真琴と野崎は、埼玉県にある鎌田ハウスへと向かう。

 「あの日の光は今も」 1981年に大阪府東区巴杵町で2人の少年がUFOを目撃した、巴杵池(はぎねいけ)事件。母とともに小さな旅館を営む昌輝は、かつてUFOを目撃した少年のうちの一人だった。事件も遠い記憶になりはじめたころ、湯水と名乗るライターが事件の記事を書きたいと旅館を訪ねてくる。昌輝は湯水と宿泊客であるゆかりに向けて、あの日何が起こったかを語り始めるが――。

 「さえづちの眼」 郊外にある名家・架守家で起こった一人娘の失踪事件。「神隠し」から数十年後、架守の家では不幸な出来事が続いていた。何かの呪いではないかと疑った当主は、霊能者の比嘉琴子に助けを求めるが――。

 文章も読みやすく、比較的短時間で読み終えました。比嘉姉妹のシリーズ物ですが、一つひとつの作品の方向性は異なっていて、最後まで飽きずに楽しめました。澤村さんの表現の仕方だからこそのモヤッとした感じがよく、澤村さんらしい、家族、母への願いが随所に表れています。(米)