御坊市で開かれた、西陣美術織の全国巡回展を取材した。2月に他界した漫画家松本零士さんの追悼展である。西陣織は戦国時代の京で始まった織物で、昨年で555周年だという◆「銀河鉄道999」のヒロインメーテルを描いた大きな掛け軸は、髪の毛よりも細い絹糸を縦5400本、横6万本使い1年かかって織り上げた。宇宙空間のメーテルを描いた帯には金糸銀糸が織り込まれ、ライトで照らすと星々が浮かび上がる。その夜、アニソンの特番があり、今なお高校野球の応援に使われるなど人気の高い「999」のテーマをゴダイゴがスタジオで歌う、貴重な映像を見た◆もう一つ貴重な映像として、故やなせたかしさんが自身の作詞した「アンパンマンのマーチ」を歌う場面が紹介された。御年92歳のやなせさんが「行け!」と力強く歌うのを見ると、アンパンマンに代わって過酷な現代社会を応援してくれているようで、目頭が熱くなる思いがした。拍手を送る出演者にも目を赤くしている人がいた◆アニメもまた日本が世界に誇る優れた文化である。高度な作画技術、高度な物語性。西陣織には及ばないが大正期からの長い歴史を持つ。番組では外国人によるランキングも紹介され、作品への愛情を熱く語る姿が映された◆絵によって語られる物語は子どもの心をダイレクトに捉える。子ども時代に出会う良質の物語は、人生にも影響を与える。世界の人々がアニメを機縁として日本に好感を抱いてくれているのは喜ぶべきことである◆海外における日本のアニメの影響を調べ、サウジアラビアなどアラブ世界、イスラエル、またパレスチナでも日本のアニメの人気が非常に高いと知った。平和のために物語や芸術が無力だとは、思いたくないのだが。(里)