「初心忘るべからず」は、室町時代に能を大成させた世阿弥の言葉という。「是非の初心忘るべからず」「時々の初心忘るべからず」「老後の初心忘るべからず」の3つの言葉を残している。例えば2つ目の「時々の――」は、「その年齢にふさわしい芸に挑むということは、その段階においては初心者であり、やはり未熟さ、つたなさがある。そのひとつひとつを忘れてはならない」。何かを始めたころの気持ちを忘れてはならないという意味に加えて、自分の未熟さをいつまでも忘れてはいけないということを説いている。

 盆明けから新しく日高町が取材エリアとなった。初めての担当でまだまだ顔と名前を覚えてもらうのに時間はかかるだろうが、役場内の雰囲気は明るく、職員の皆さんも気さくな人が多いのが第一印象。少子高齢社会、人口減少が全国的な大きな課題の中、毎年人口が増えている町として今後ますます注目される地域であろう。増加の要因はどういうところにあるのか、これから一人でも多くの人と話をして探っていきたいと思っている。

 日高地方のほかの町にもいえるが、海、山など豊かな自然は魅力の一つ。先日、父の故郷である日高町の活性化に少しでも貢献したいと、レンタサイクル事業を企画している湯川洋さんを取材した。一般の住民がこの町のために何かしたい、この思いこそがその町の魅力の一つであると感じる。形はどうあれ、そんな思いを持った人が増えれば町がどんどん豊かになっていくのだろう。まちづくりは人づくりといわれるゆえんである。人の営みがあってのまち。初心忘れず、一人でも多くの「人」を紹介していきたい。(片)