県水産試験場(串本町)はふ化した直後のモクズガニの種苗育成に関し、海水に淡水を25%加えた75%海水で飼育すると最も生存率が高くなることを明らかにした。県内では日高川町の日高川漁協でモクズガニの種苗育成が行われており、今回の試験データが普及指導されることになる。効果的な生産技術により、資源保護が期待されている。

 日高地方では「ズンゴ」とも呼ばれるモクズガニは、高級食材の上海ガニ(チュウゴクモクズガニ)の近縁種。全国各地に生息し、秋の味覚として知られている。

 県内では日高川漁協で育成した稚ガニが資源増殖を目的に切目川、南部川、紀の川など県内7河川に年間7万5000匹放流されているが、生育が順調に進まず放流量が不足することもあるという。

 水産試験場は2020年度から低塩分海水を用いたモクズガニ種苗生産技術の開発として取り組み、ふ化した直後の幼生期で「ゾエア」(0~16日齢)と呼ばれる時期の飼育海水濃度に着目。これまでは100%の海水で飼育してきたが、実験では100%の海水、75%海水(淡水25%)、50%海水(同50%)の3種類で行った結果、75%海水の生存率が14・8%と最も高かった。50%海水では11・1%で、100%海水の3・9%と大きな差が出た。幼生期の次の段階となる「メガロパ」(17~28日齢)では75%海水から淡水を加えて一日当たり25%ずつ海水濃度を低下させ、3日後に淡水としても生存率は95%を維持した。

 日高川漁協の種苗施設は海から離れているため、海水の運搬作業でも省力化が図られることになる。

 研究を担当した武田崇史主査研究員(36)は「今回の研究結果を生かし、モクズガニの資源保護につなげていきたい」と話している。