日高川町寒川地区で伝わる風習「お月見どろぼう」を取材した。

 寒川では毎年、中秋の名月に各家がススキや団子と一緒にお菓子をお供え。お月見どろぼうは、子どもたちがこのお菓子をもらって回る行事。友達同士や、保護者と一緒に地域を歩いて一軒一軒回り、軒先や玄関前などに供えられたたくさんのお菓子をリュックサックや手提げ袋などに詰め込んでいた。

 友達との夜の外出のわくわく感やお菓子をたくさんもらえるうれしさで子どもたちにとっては特別な日。面白かったのが寒川第一小学校の演出。夜の学校は薄気味悪い上に、玄関前には映画「千と千尋の神隠し」に出てくるカオナシが待ち構えていた。先生お手製の人形らしく、暗闇に佇む姿がリアルで、子どもたちは怖さの余り、その前に置かれたお菓子の箱にはなかなか手を入れられず大騒ぎ。学校が参加するだけでなく、サプライズを用意する遊び心が素敵だった。お菓子を供える家はだいたい、子どもたちが危なくないように門灯など照明を点け、明るくして子どもたちを無人で出迎え。時折りその家のお供えに加え、「〇〇さんからです」と書かれたお菓子入り段ボールが置かれている家も。集落から離れた家から届けられたものだと分かり、子どもたちへの地域の人の温かい気持ちが伝わってきた。

 寒川は町内の中でも過疎化が深刻で、以前はこんな日に通りを行き交う子どもでもっとにぎやかだったろうが、今後も増加は難しく、子どもがいなくなればこの風習は途絶えてしまう。小さな集落だからこそ大人も子どもも顔見知りで、地域が子どもを見守る安心があり、気持ちの通った場所だから残る風習はとても微笑ましく、ずっと続いてほしいと思った。(陽)