先日、一昨年5月に書いた本欄への感想を、未知の方からメールでいただいた。「シャルル・ボネ症候群について」と題する一文である◆視力の極めて低い人に発症する目の病気で、実在しない映像が見える。視神経の作用であり、心因性のものではない。筆者は本紙に不定期でコラムを連載している由良町の中西忠さんの体験からこの病気を知った。バイオリンを弾くアラブ人、輝くガラスの構築物など多彩な映像が見えたという。「実在しないものが見えている」と自覚があるのが精神疾患との明確な違いだが、「おかしくなったのではないか」と思われるのを恐れて誰にも言えない患者が多数いるとみられる。それは由々しきことではないかと、当時の本欄で書いた。それから1年半、特に反応はなく、やはり患者は少ないのだろうかと思っていた◆今回、感想を下さった方のお名前はセアまりさん。50代まで染色家として活動していたが、網膜色素変性症という難病を発症。現在は盲導犬と生活しながら、絵本の原作者、フリーダイバーとして活動している。ご本名の浅野麻里さんとして、全国紙にその活躍が掲載されていた。記事には発症当時の葛藤、沖縄の海や盲導犬フリルとの出会いが前向きな気持ちをくれたことなどが紹介されている◆セアまりさんは先月、東京で「景絵(ひかりえ)―見えない私が見る世界―」を開催。ネットで作品の一部を拝見した。色彩、模様など心ひかれる美しい世界が広がっていた。このような活動から、同様の症状を持つ人がどれほど勇気づけられるかと思う◆発信することが、それに触れる人の世界を広げる。そしてその人がまた、誰かの心を動かす発信をするかもしれない。知ること、知らせることが世界を変えていく。 (里)