加齢のせいか、忘れっぽさに拍車がかかってきた。記憶とはどんどん薄れていってしまうものだと、40代半ばになると痛感する。高校生のころ、450人ほどいた同学年の名前はほぼ覚えていたが、30年経つと覚えている人の名前の方が圧倒的に少ない。ただ、何かしらインパクトの強い出来事は記憶に残っている。二十歳のころ、広島観光で平和記念資料館に立ち寄り、「戦争は絶対にしたらあかん」と思ったことは今でもはっきり覚えている。忘れられない記憶、そして忘れてはいけない記憶がある。

 15日は75回目の終戦記念日だった。日本人として、忘れてはいけない日の一つだ。戦争体験者の経験を伝える本紙連載「終わらざる夏」は今年で10年目。筆者も連載2年目から取材班に加わった。戦争を全く知らない世代、これまで聞かせていただいた体験者の話はすべて記憶に残っている。今年は激戦地フィリピンから生還したみなべ町滝の西口正一さんにうかがった。御年100歳。75年以上の時を経ても浮かぶ記憶、筆者には想像すらできない壮絶な体験であったことが分かる。

 兵隊として戦争を体験した方々は皆、90歳を超えている。外地にいかれた方は95歳を超えているだろう。体験者が少なくなり、語り継ぐことが大きな課題となっている。体験者がいなくなってしまう時は必ずやってくる。聞き取りにも限界があるのは当然だ。これからは、体験者から話を聞いたその子どもや孫世代が、語り継いでいく番なのだろう。家族や親せきに体験者がいたら、もう一度話を聞いてほしい。聞いたことのある人は書き留めておいてほしい。忘れられない記憶としてとどめることが、平和への一歩だ。(片)