御坊市は24日、ごぼう総活躍のまちづくりプロジェクトの一環で、認知症になっても希望を持って暮らせるまちづくりを目指した講演会とシンポジウムを御坊商工会館で開催した。第1部では、若年性アルツハイマー型認知症当事者の丹野智文さん(42)=仙台市=が講演。周りの環境が良ければ笑顔で楽しく過ごせることを強調し、「失敗を怒らず、信じてあげる環境をつくろう」と強いメッセージを送った。
 丹野さんは自動車販売会社の営業マンとして働いていた39歳のとき、若年性アルツハイマー型認知症と診断され、苦悩もあったが、周りの理解と支えで仕事と家庭を両立している経験談を披露した。
 認知症と診断されて最もつらかったのは妻、両親、2人の子どもたちに心配をかけてしまうことだったと振り返り、「認知症をオープンにすればサポートしてくれる人がたくさんいることを知ったが、偏見もあり、家族に迷惑をかけてしまうかもしれない」と葛藤があった率直な胸の内を明かした。そんなとき、子どもが「パパはよいことをしているんだから、いいんじゃない」と言ってくれ、オープンにすることを決心したエピソードを紹介。中学、高校の部活の仲間との集まりに参加したとき、病気のことを知らせた上で「『次に会ったとき、みんなの顔を忘れていたらごめん』と笑いながらいうと、みんなは『大丈夫、俺たちがお前のことを覚えているから』といってくれ、不安が吹き飛んだ」と周りの理解で前向きになれたことを説明した。病気診断されたあと、認知症の人と家族の会に参加し、優しく声をかけてくれて、仲間と会うのが楽しみになっていったことも紹介し、「認知症とともに生きる道を選んだ。家族と過ごす時間が増え、家族の会と出会い、たくさんの優しさに触れた。認知症になっても周りの環境さえよければ笑顔で楽しく過ごせることが分かった」と人と人のつながりが当事者を笑顔にすると強調した。
 認知症の家族や支援する側の人には「できることを奪わないでください。時間はかかるかもしれないが、待ってあげてください。一回できなくても、次できるかもと信じてあげてください。当事者はできたとき自信を持つ。話をしていても、当事者が話をする前に、一緒にいる人が代弁してしまい、当事者の話を奪っているように思うことがある」と当事者目線で訴え、「周りの人は、失敗しても怒らない、行動を奪わないことが重要。そんな環境が認知症には必要です」と声を大にした。最後に「一歩を踏み出すことで人生が変わり、多くの認知症を持つ人と知り合え、これからについて安心することができ、進行も遅くなっていくような気がする。わたしは営業の仕事と車の運転はあきらめたが、講演活動などで人生が大きく変わった。人生は認知症になっても新しくつくることができる」と、前向きに生きることの大切さを生き生きした表情で話した。