医療の進歩がめざましい。がん治療の分野ではいくつかの最新療法が注目を集めている。その1つが樹状細胞ワクチン療法。和歌山県立医科大第二外科の山上裕機教授らの研究グループは来年春、日本で初のすい臓がん患者を対象とした医師主導治験を開始する。
 同大学は西日本の医療機関では最も多いすい臓がんの手術実績を持ち、10年前からは手術や抗がん剤の標準治療で効果がみられない食道がん、すい臓がん患者を対象としたペプチドワクチンの臨床試験などを行ってきた。その蓄積されたノウハウの上に、新たな段階の扉が開かれる。
 ペプチドワクチンも樹状細胞ワクチンも同じ免疫療法だが、樹状細胞ワクチンは患者の血液から樹状細胞の元となる細胞を取り出して成熟させ、がんの目印となるがん抗原(ペプチド)を取り込ませ、注射で再び患者の体内に戻す。これによってT細胞が活性化され、副作用が少なくがんを攻撃する。
 この自身の細胞(樹状細胞)を取り出して戻すという点が従来の免疫療法との最大の違い。がん攻撃の司令塔としての力を高めた樹状細胞を投与することにより、人工のがん抗原を直接投与するペプチドワクチンに比べて、より確実に前線のT細胞を勢いづかせることができるという。
 このほか、新たな免疫療法としては免疫チェックポイント阻害剤が注目を集め、代表的なものではメラノーマ(悪性黒色腫)と非小細胞肺がんに保険適用された「オプジーボ」がある。高額な薬価が国家を破たんさせかねない副作用ともいわれるが、樹状細胞ワクチンが一日も早く新薬となり、T細胞の力をフルに発揮させる併用等で、あらゆるがんを完璧にたたく日がくると信じたい。 (静)