東京都小笠原村父島出身の中学生球児を取材した。本人や母親に話を聴かせてもらって一番すごいと思ったのが、野球をやりたいという熱意だった。
 本土の東京に行くにはフェリーで25時間かかり、その定期便は週1回の南の島。スーパーは島内に2軒、靴屋と本屋はなかったらしい。スパイクやグラブなどの野球道具をそろえるのもネットで注文するか、年1回本土へ渡った際に購入するか。そんな環境の中でもバッティング練習するための網や野球に関する本はネットを使って手に入れるなどし、頑張ってきたそうだ。しかし、地元の少年野球チームでは週1回しか練習がなく、中学生になると部員不足に悩む学校の部活しか野球を続ける道はない。小学5年生になると、「強いチームで野球をやりたい」と決心し、由良町移住を希望するようになったという。
 両親は「よし、分かった」とすぐに理解を示したわけではなかった。「野球がしたいなら、これから自分が何をしていけばいいか考えなさい」と息子に話したところ、朝6時から1時間ほどの自主トレに打ち込み始めた。1年以上も熱心に朝練に取り組む姿を見て、「これなら協力してあげよう」と一家で引っ越しすることを決めた。
 移住後の子どもの様子を問うと、「すごく楽しそうで、テンションが上がっています」。すでに練習試合に出場し、念願だった硬式野球の実戦を経験。由良町に来ても朝練を続け、自宅から約4㌔離れたグラウンドまでは走って練習に通っている。
 熱意は周囲に影響を及ぼし、人を動かす力がある。球児の両親が動かされたように。記事を通し、何かをやろうとする子どもたちにそんな部分も伝わってくれればと思う。(賀)