「信なくば立たず。自らが主張してきたことと軽率な行動のつじつまが合わないことを深く反省し、議員辞職する決意を固めた」。報道によると、女性タレントとの不倫が週刊誌で報じられた衆院議員は辞職を表明した記者会見で、こう述べたという。第1子誕生を機に「育児休業」を宣言、国会議員の育休制度化に向けて活動するだけでなく世間にも広く男性の育児参加をアピールしておきながら出産直前の妻と有権者を平気で裏切り、いまさら「信なくば立たず」と言えるところがふてぶてしい。議員辞職で早期の幕引きを図り、自身の再起へ影響を最小限にとどめようとしているのも透けて見え、選挙区の有権者の怒りはなかなか収まらないだろう。
 「信」は「信頼」「信用」。「信なくば...」は孔子が政治を行ううえで大切なものとして軍備、食生活、民衆の信頼の3つを示し、とくに重要なのが信頼であると説いたことから使われている言葉といわれる。とにかく信用は、なければ札束もただの紙切れになり、社会も成り立たない。
 「高速道路無料」「ガソリンの暫定税率廃止」などと訴えて政権交代を実現した政治家たちが、再び同じ公約を掲げ、選挙に臨んだらどうなるか。「今度こそやります」なんて言葉はなんの説得力もなく大敗するのは間違いない。やはり失った信頼、信用はなかなか元通りにすることはできない。得るには長い時間と労力がかかるが、失うのは一瞬である。
 政治家や有力者は美辞麗句を並べてアピールするのが得意。しかし、不倫議員の件で改めて痛感させられたように、周囲の「信」を得るのは発する言葉ではなく誠実な行動であるともっと自覚する必要がある。(賀)