和歌山市吹上の県立博物館で23日から企画展「紀州を旅する」が始まり、日高地方の関係では御坊市塩屋町北塩屋の塩屋王子神社に残る石碑「塩屋王子祠前碑(しおやおうじしぜんのひ)」の碑文の元となった掛け軸(撰並書)が公開される。掛け軸は「紀伊続風土記」を編纂した儒学者仁井田好古(にいだ・こうこ)の自筆で、これを石碑に写し取った仁井田の部下の勝本瀧右衛門(かつもと・たきえもん)が書いたと伝えられる絵日記も展示される。
 企画展は、江戸時代に紀州の霊場や名勝を旅した人々が残した紀行文、記録、絵画などを通じ、多くの人に足を運ばせた紀州の魅力を紹介。「紀州の風景」「旅行記にみる旅」「霊場をめぐる」などに分類され、日高地方関係では塩屋王子の「塩屋王子祠前碑」などのほか、同博物館所蔵の「道成寺縁起絵巻」2巻も展示される。
 塩屋王子祠前碑は、天保6年(1835)に建立された塩屋王子神社の石碑で、碑文は当時、紀州藩内各地の歴史や風土を書面に残す「紀伊続風土記」の編纂責任者を務めていた儒学者仁井田が、同書編纂人の1人だった本居大平(もとおり・おおひら)の弟子の塩崎氏(塩屋出身)に依頼されて撰文を草稿。それを仁井田が部下の勝本に石面に写し取るよう命じたと伝えられている。
 今回の企画展では、石碑の建立から180年後の平成22年まで、神社のすぐ近くの野村忠司さん宅で保管されていた仁井田自筆の掛け軸(撰並書)と、石碑への写しを命じられた仁井田の部下の勝本が書いたとみられる絵日記「滑稽秋乃空」が展示される。勝本は学者ではなく武士だったが、絵が上手で、「紀伊続風土記」の地図を担当しており、絵日記には塩屋王子の石碑の写し作業のほか、和歌山市から日高郡までの道中、道成寺や丸山の亀山城址に立ち寄ったことなどが洒脱な絵とともにつづられている。
 塩屋王子の石碑は風化が進み、碑文も読めない状態だったが、いまから5年前に地元の有志らの働きかけで市の教育委員会が修復。そのメンバーの1人で、現在は塩屋文化協会会長を務める溝口設計代表、溝口善久さん(60)は「県内各地に残る仁井田好古草稿の石碑の中でも、自筆の巻物(掛け軸)が良好な保存状態で残っているのはこの塩屋王子が唯一。ぜひこの機会に、多くの方に見ていただきたいと思います」と話している。
 企画展は3月6日まで。