出家詐欺を取り扱ったNHKの報道番組をめぐり、放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会が「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表した。放送は昨年5月で、今年4月にはNHKが「過剰な演出や視聴者に誤解を与える編集が行われた」としながらも、事実の捏造につながる「やらせ」は否定。その後も波紋が広がっている。
 問題の番組では、初対面のようにやりとりするブローカーとされる男性と多重債務者の男性が実は旧知の仲で、それをビルの窓越しに隠し撮り風に撮影し、終わったあとに記者も含め3人が居酒屋で打ち上げをしたという。BPOは「深刻な問題を演出や編集の不適切さに矮小化していないか」と指摘したが、事実はだれが見てもやらせではないか。
 演出とは本来、映画やドラマの世界の話であり、テレビに関しては視聴率を求められるため、報道番組であっても規範意識があいまいになりがちなのだろう。許容範囲はBGMや照明がぎりぎり、事実を曲げることは絶対にあってはならない。
 映画やドラマも監督が違えば演出も異なり、同じ原作でも受け手はまるで別物の印象を受けることがある。話題の『下町ロケット』も、上司と部下がにらみ合い、口角泡をとばす熱いセリフの応酬は非現実ではあるが、ある種過剰な演出もエンターテイメントとして面白く、視聴者も「つくりもの」と分かったうえで感動を味わえる。
 報道は事実を正確に伝えることが第一で、より一般の人の感覚に沿った視点を忘れてはならない。今回のNHKは血のりを使ったプロレスのようなもの。自らが「やらせ」と認め、反省しなければ再発を防げない。反省があれば、汚名返上のすばらしい番組制作につながる。   (静)