空気がさらっと心地よいこの時期は、スポーツの季節であると共に読書の季節でもある。両方を楽しむためというわけでもないが、最近スポーツに関する本を立て続けに読んだ。印象的だったのが、古今の著名な文筆家19人のスポーツ関係の随筆を集めた「彼らの奇蹟」(玉木正之編、新潮文庫)
 ◆有吉佐和子が東京五輪女子バレーを書いた「魔女は勝った」を読むため購入したのだが、他の18人の個性みなぎる文章が面白い。澁澤龍彦が平安貴族のスポーツ蹴鞠について描いた「空飛ぶ大納言」、石原慎太郎が事故死者の出たヨットレースへの出場体験を書いた「死のヨット・レース脱出記」等々、書き手もテーマも幅広く、一つ一つに物語がある
 ◆山際淳司「たった一人のオリンピック」の主人公は五輪メダリストという称号に憧れ、比較的競争率の低いボート競技に打ち込んだ。モスクワ五輪に照準を合わせ、何もかも犠牲にして5年間励んだが、その年がきた時、日本政府はソ連のアフガン侵攻に抗議してボイコットを決めた。彼はその後スポーツから離れ、電気メーカーに就職した
 ◆どことなくユーモラスな書きぶりのそれとは対照的なのが、日本女性の五輪メダリスト第1号人見絹枝について書いた虫明亜呂夢「大理石の碑」。「女子がスポーツをするのははしたない」と思われていた昭和初期、彼女は女性スポーツの指導やジャーナリズムで活躍。過酷な活動の末、肺結核で亡くなる。享年24歳。読後、高校野球の勝利チームが校歌を斉唱するのは昭和4年に人見絹枝が提案してからと知った
 ◆スポーツについて読むのは、一つのことに向き合う人達の「ひたむきさ」に触れること。そうして心動かされる経験は、道徳の授業より深く心を育ててくれるように思える。  (里)