子どもの頃、母が家で柏餅を作ると言い出し、山へ葉を採りにいったことがある。柏の葉でなくサルトリイバラを使うのだ、と父の講釈を聞きながら車で日高川沿いの道をさかのぼり、丸くすべすべした葉を摘んだ。しかし出来た柏餅は皮が水っぽくて妙に柔らかく、子ども心にお店で買う方がおいしいな、と思った
 そんな記憶が、御坊文化財研究会総会記念講演会の取材で蘇った。講師は鈴木裕範和大客員教授、テーマは和菓子にみる地域文化。全国的には柏餅といえば凹凸のある形の柏の葉が使われるが、和歌山県南部は柏が自生せず、光沢のある丸いサンキライ(山帰来)の葉が使われる。サルトリイバラの本名を初めて知った。そのほか、ひし餅は赤・白・緑だが湯浅町山田地区では黄・白・緑とのこと。「昔、家でもその色のひし餅を食べた」と由良の人から申し出があったり、柏餅が残ると「おかいさん(茶粥)」に入れて炊いたという話も飛び出した。やはり和菓子は多くの人にとって幼少時の記憶に結び付くようだ
 日本人の特性は、季節の移り変わりへの鋭敏な感覚、そして外界のものをアレンジして取り入れる柔軟な感覚。和菓子店ではそれが陳列棚に息づくように思える。伝統を受け継ぐ定番の菓子。繊細なデザインに季節感が香る菓子。名前に工夫が凝らされ「洋」との融合も試みた菓子。眺めるだけで心楽しい。昔から和菓子は大好きだが、おいしいだけでなく心を潤すプラスαがあるからなのだろう。それは文化の原点でもある
 「朝早くから遅くまで頑張る和菓子の老舗が町にあり、それを誇りに思う町の人がいる。和菓子の老舗が町の品格をつくる」。そんな鈴木氏の言葉に、あらためて次世代に伝えるべき和菓子文化の奥深い魅力を思った。(里)