全国の医療現場で前立腺がんや膀胱がんの摘出に導入が進んでいるロボット手術について、和歌山県立医科大学(岡村吉隆理事長・学長)が新たに直腸がんの手術への運用を開始した。現在主流の腹腔鏡手術に比べて術後の合併症が少なく、患者の体への負担がほとんどないのが大きなメリット。直腸がんに対するロボット手術は県内では初めてで、すでに2人が手術を受けて退院している。
 ロボット手術は、高精細な3次元カメラと3本の手術鉗子を体内に挿入し、執刀医は患者に直接触れることなく、専用のモニターを見ながらいすに座ってロボットを操作。指先の動きがケーブルを通じて患者の体内のアーム先端の鉗子に伝わり、人の手首以上に自由度の高い動きで腫瘍の切除、縫合などを行う。県立医科大は平成24年度、近畿の医療機関では4番目にこのロボット手術システム「ダヴィンチ」を導入。これまで前立腺がんの全摘手術などに威力を発揮している。
 今回はこれを消化器系の大腸がんにも適用。腹部の直径8~12㍉の穴に通すアーム挿入用の管(ポート)がまったく動かず、体内の微妙な動きも映像を見ながら直感的に操作できるため、腹腔鏡に比べて傷の痛みが少ない。また、リンパ節を含めてがんを取りきるため、周囲の組織を含めた直腸の切除、その外側に接する性機能や排尿をつかさどる骨盤内自律神経の温存がより確実に行えるようになる。
 県立医科大附属病院では先月中旬と今月初旬に1人ずつ、ロボット手術による大腸がん摘出を行った。いずれも術後の合併症はなく、体の痛みもほとんどなく、1週間の入院で元気に退院したという。16日には第二外科の山上裕機教授、瀧藤克也准教授らが記者会見し、山上教授は「一般的に消化器のがんは食道、胃、大腸、肝臓、すい臓などがあり、胃や大腸の中の上行結腸、横行結腸は比較的、平面的な手術が可能だが、直腸は奥行きの深い部分にあり、人の手で行う腹腔鏡手術では距離感がつかみにくく、難しい部分もある。その点、消化器がんの中で最もロボット手術の利点を生かせるのは直腸がんだと思う」と説明した。