御坊市制施行60周年記念事業の防災講演会が25日に市民文化会館で開かれ、東日本大震災の〝釜石の軌跡〟の立役者として知られる群馬大学大学院理工学府の片田敏孝教授(54)が「想定を超える災害にどう備えるか~今求められる家庭・地域の防災力~」をテーマに語った。特に内閣府が大震災後に公表した津波の新想定については「バカみたいな数字」と痛烈に批判し、「数字に脅えずきちんと逃げてほしい」と訴えた。
 片田教授は内閣府の新想定を紹介しながら、「御坊市では津波の最大の高さが16㍍で、第1波の1㍍以上の津波が来る時間は15分。御坊はそうそう高い場所もなく、不安が募るのは当然。ただ、この数字をどうとらえるかが重要。こういった不安で全国的に避難放棄者や過疎が進む地域もある」と問題点を指摘した。その上で、「確かに1000年に1度と言えばありえるが、次に来る津波が16㍍もあるとは限らない。しかも震源域を少しでも変えれば数字はころころ変わる。そんな数字のせいで地域が不幸せになってどうするのか。数字に脅えてどうするのか。私は内閣府がなんでこんな数字を公表したのか、『いい加減にしろ』と言いたい。想定外の大震災を受けて、保身に走っているだけ。もっと国民が前向きに対策できる社会を作っていくのが国の役目だ」と語気を強めた。さらに「いちいちこんな数字を相手にする必要はない。分かっていればいいのは『大きな地震が来れば、大きな津波が来る。だから逃げる』ということ。新しい想定が出たからといって、この地域で長い間生きてきた営みや自然は何も変わらない。これからも凛とした姿勢で海と向かい合い、御坊のお作法として当たり前に『地震が来たら逃げる』を守って乗り切ってほしい」と呼びかけた。
 また、岩手県で小中学生3000人のほぼ100%が助かった釜石の奇跡がなぜ起きたのかを説明しながら、子どもへの防災教育の必要性について「子どもは大人の背中を見ている。祖父母や父母がしっかり津波から逃げる意識を持っていないと、子どもにもその意識が育まれない。学校での教育も大切」などとした。このほか、津波避難タワーに頼りすぎないことや津波記念碑などに残された先人の思いをどのようにいまの対策に役立てるのかなど、幅広い方面から防災対策について語った。来場した約500人は熱心に聴き入り、それぞれの家庭や地区での防災を考え直していた。