いまから74年前、ナチスドイツに宣戦布告したイギリス。その国の首相、チャーチルによってABCD包囲網が画策され、アメリカと日本が戦争を起こすよう仕向けた。日本はあくまで対米戦を避けようと懸命の努力を続けたが、石油禁輸で近代国家の血と骨を断たれ、いよいよ頭に血が上ったところで「ハル・ノート」と呼ばれる事実上の宣戦布告を突きつけられ、真珠湾攻撃に踏み切った。
 戦争のような大きな話でなくても、人間関係でも相手を追い込みすぎると喧嘩になってしまうというのは、だれもが経験的に分かる。自分から喧嘩をしかけるつもりはなくても、相手の落ち度や弁解しようもない不正を正面から突いてしまうと、責められた側は逃げ場を失い、ついにはとんでもない行動に出る。わめきちらす、殴りかかるならまだ大丈夫だが、そばに刃物があったりすると危ない。
 いわゆる「カッとなって」の殺人事件。ニュースで容疑者の動機を耳にして、「しょうもな...」と思わず笑ってしまうこともあるが、よくよく考えてみれば、自分が追い込まれた経験がある人には他人事ではないはず。人は自分の非を責められ、正論で追い込まれるとキレて逆上する。
 その瞬間、喧嘩で勝てる相手なら殴り、勝てない相手ならとっさに凶器をとる。また、倍返しで追い込まれた上司も「ク、クビだぁ!」と叫んだところで落ち度があるのは自分であり、相手をクビになどできるわけがないのもドラマと現実の違い。社員が会社を見限って自主的に去るのが実際だろう。
 沸点の高さは人によって大きく違うが、喧嘩も国同士の戦争も、一方が追い込みすぎた結果。サラリーマンも政治家も、組織や国家のための私情抜きの喧嘩は許され、しなければならないときがある。  (静)