幼稚園の頃、毎月1冊ずつフレーベル館の絵本が配られた。その中に、「さよならジャンボ」という一冊があった。
 王様とトン、チン、カンという国民3人の小さな国に、象のジャンボと象使いの少年が贈られる。皆で楽しく暮らしていたが、ある時、両隣の大きな国が戦争を始めた。食べ物がなくなり、ジャンボの命も危うくなる...
 これが生まれて初めて接した「戦争物」の本だった。残念ながら詳しくは覚えていないが、ジャンボが長い鼻で爆弾を運ぼうとしている絵が印象に残っている。著者は、今月13日に94歳で他界された漫画家のやなせたかしさん。アンパンマンの作者としてあまりにも有名だが、筆者にはこの絵本がこの人との出会いだった。
 全国紙の追悼記事で「子どもに容赦する必要はないというのが僕の持論」という言葉を読み、幼い子ども向けの絵本で「せんそう」を語ってくれた心を思った。アンパンマンは発表当初、大人たちには「自分の顔を食べさせるなんてグロテスク」と酷評されたが、子どもたちは奪い合うように読んだという。
 「てのひらを太陽に」の作詞者でもある。「みんなみんな生きているんだ友達なんだ」は、戦争体験から得た死生観に基づく。「A国とB国で正義は違っても、飢えた人を助ける正義はどこでも変わらない」との信念からアンパンマンは生まれた。「アンパンマンのマーチ」の歌詞を読むと、込められた思いの熱さにふっと涙が出そうになる。
 どこか不敵なものを内に秘めた飄々とした笑顔は90歳を超えても変わらず、見るたび元気をくれた。100歳までも現役で、飄々と笑っていてほしかった。迷走する時代の波の中に立つ、道標のように。  (里)