日高川町高津尾の小原長滝が出生とされる江戸時代中期の女形歌舞伎役者、芳澤あやめ。資料によると、歴史家は、今から約320年前の元禄から享保時代にかけての有名な歌舞伎役者として坂田藤十郎、沢村長十郎、市川団十郎、中村七三郎、水木辰之助とこの芳澤あやめの6人を挙げ、当時の記録(役者評判記)などではあやめがその筆頭で「日本無双」との賛辞を送っているという。
 中津地区で伝わるあやめ踊りは、あやめをしのぶ舞踊。11月の文化芸能祭などで保存会によって踊りが披露され、地域で親しまれている。あやめ踊りは昭和26年の創作で、当時の練習会では上方舞の山村流4世宗家山村若氏が地域を訪れ、村民らに丁寧に手取り足取り振り付けを教えたそうである。太鼓、三味線、尺八の音色に合わせて踊る舞は、農家から身を起こしたあやめが日本を代表する女形歌舞伎役者として成功するまでの修行を表現。優雅でかつ凛(りん)とした芸格で、筆者も踊りを見るたびに、多くの人を魅了してやまなかったあやめの姿を想像する。
 地元中津中学校であやめ踊りを継承していく取り組みが行われている。中学生ともなると意外に知らない生徒が多く、「踊りがあるなんて知らなかった」という声が聞かれ少し驚いた。踊りの練習では優雅に両手を振ったり、色っぽく手を口元に当てたりする女形ならではのしぐさに戸惑いながらも熱心に楽しそうに取り組む姿を見ているとうれしくなった。この成果は11月3日の文化芸能祭、同10日の中学校の文化祭でお披露目。中津が生んだ偉人に思いをはせ、踊りが永遠に引き継がれていくことを願いながら、あやめの後輩たちの舞を観賞したい。(昌)