作家の山崎豊子さんが亡くなった。元は新聞記者で、日々、取材をしながら小説を書き、社会問題や組織の腐敗を鋭くえぐる作品の多くはドラマ化、映画化されている。昨年のテレビドラマ『運命の人』は最も重要な沖縄がほとんど描かれず、原作を台無しにする駄作だったが、日本人の心に響く熱き男、女の物語に、震えながらページをめくったファンも多いのでは。
 代表作に中国残留孤児の波乱に満ちた生涯を描いた『大地の子』がある。この大作の取材では、閉鎖的な中国政府にあって、胡耀邦総書記が山崎さんの取材に全面的に協力するよう指示したという。胡耀邦といえば、狂気の独裁政治にさからい、失脚、復活を繰り返しながら民主化への改革を進めた。チベットでは共産党政府の弾圧の実態に涙を流して謝罪し、正義を貫いた。
 平成元年4月の彼の死後、民主化を求める学生たちの怒りは頂点に達し、6月には例の天安門事件が起きた。武力によるデモ鎮圧、人民への無差別発砲が国際的な批判を浴び、この爆発的な内政の不満を国外へ向けるため、国策としてスタートした反日教育が20年の時を経て、日本人と中国人の間には埋めがたい溝ができてしまった。
 戦後の中国では、『大地の子』の陸徳志夫妻のように、日本人の子どもを引き取ってわが子のように愛情を注いだ中国人もいた。中国共産党の中にも、胡耀邦や劉少奇のように、命がけで反旗を翻したまっとうな政治家もいた。茶番にしか思えない薄熙来の裁判をみても、抵抗勢力は徹底して排除、粛清する体質は毛沢東の時代から変わっていない。
 そんな中国の軍事的脅威が目の前に迫る日本。国家存続をかけて、憂国の政治家が立ち上がらねばならない。(静)