今月3日にご自宅の火災で他界されたアメリカ村カナダ資料館館長の西浜久計さん、吟子さんご夫妻と初めてお会いしたのは20年近くも前、記者になって間もない頃だった◆西浜さんには実にいろいろなことを教えていただいたが、今思い出すのは趣味で描いておられた洋画のこと。カナダの山脈や南紀の海を描いた明るい色調の風景画が多かった。淡いピンクやブルーがよく使われ、無邪気といっていい不思議な明るさ。大らかで篤実な人柄がそこには表れていたように思う◆火災の1カ月ほど前訪ねると、近作が飾られていた。珍しく街中の風景で、「街角残照」という題。ご自宅前の道路を中心とした景色が、柔かな色合いの夕空の下に広がっていた。親しくお話したのはその時が最後だった◆嵯峨御流の生け花、表千家の茶道を指導しておられた吟子さんにもよく取材した。吟子さんの生け花にはいつも明るく品のいい華やぎがあった。見る人の目を楽しませる美しい色、斬新な形。陶器の傘立てや流木を使ってのユニークな大作を懐かしく思い出す◆本紙随筆同人で、最後にいただいた随筆は8月13日付掲載「大福茶会」。直径40㌢もある大茶碗を使う茶会の模様が、心和ませる筆致で描かれていた。美しいものを愛し、周囲の人に温かい目を注ぐ気さくな人柄がにじみ出る文だった◆いつも玄関脇の部屋で、L字型の長椅子でお話を聞いた。書棚には生け花や陶芸の本、立派な装丁の画集が並んでいた。あの部屋がもう地上のどこにもないことが未だに信じられない。そしてご夫妻とはもう2度とお会いできないのだと、あらためて胸に迫る。今はただ、ひたすらにご冥福をお祈りしたい。(里)