重症の耳鳴りに関する脳科学研究を進める県立医科大学(板倉徹理事長)の共同研究チームは29日、独自の脳内ネットワークの解析により、聴覚とは直接関係のない領域が耳鳴りに関係していることなどを突き止めたと発表した。耳鼻咽喉科、生理学第一講座、神経精神科などが連携した世界で初めての研究成果。抗てんかん薬や磁気刺激療法により、治療への糸口が見つかったという。
 耳鳴りの原因は不明で根本的な治療法もなく、重症の人は精神的に病んでしまい、自殺に追い込まれるケースもある。難聴の患者に耳鳴りを訴える人が多いことから、以前は聴覚機能の異常から引き起こされる末梢発生説が考えられ、耳の神経の一部を切除するなどの治療が行われていたが、神経を切っても症状が変わらず、悪化してしまうケースも少なくなかった。近年は脳の中枢に原因をさぐる研究が主流になりつつあり、脳のどの領域が耳鳴りに関係しているのかの研究が世界中で進んでいる。
 県立医科大は耳鼻咽喉科、神経精神科、基礎医学教室(脳科学研究)の生理学第一講座と解剖学第一講座、最新鋭のMRIを持つ和歌山南放射線科クリニックのチームを立ち上げ、全国から集まった患者の協力を得て平成23年8月から研究を開始。独自の脳内ネットワーク解析法を開発し、脳全体を探索した結果、聴覚とは直接関係のない部分(前頭葉の尾状核や海馬)に耳鳴りに関係する領域を見つけた。また、耳鳴りの音の大きさと不快感はそれぞれ別の領域が関与していることも突き止め、耳鳴りそのものは治らなくても、不快感は除ける可能性があることが分かったという。
 重症耳鳴り患者のMRI検査結果などから、具体的な脳の関連領域や症状のつながりを特定したのは県立医大のチームが世界で初めて。耳鳴りは脳のネットワークの異常が原因ではないかと分かり、神経精神科の篠崎和弘教授は「今後、異常領域のターゲットがさらに明らかになることで、うつ病患者などに行われている磁気刺激療法などが、耳鳴りに悩む人のうつ症状、あるいは耳鳴りそのものの苦痛を小さくすることも可能になると考えられる」と話している。