「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。憲法第25条に定められている生存権。参院選が近づき、発議要件を緩和する96条など、憲法改正が取り沙汰されているなか、思わぬところでこの憲法25条に照らした日本の医療に対する叫びを聞いた。
 県立医科大に全国で初めて、がん患者団体による寄付講座「がんペプチドワクチン治療学講座」が開設される。手術、抗がん剤(化学療法)、放射線の標準治療では効果が出ない〝がん難民〟と呼ばれる患者に、ワクチン投与の治療(臨床試験)を行う。
 自分自身、または家族の体にがんが見つかり、標準治療に効果が期待できないとなったらどうするか。だれもがセカンドオピニオンを求め、別の治療法がないかと探し回るはず。インターネットを検索すれば、さまざまな未承認の薬や民間療法がヒットする。がんペプチドワクチンは「第4の治療法」に最も近く、最も科学的根拠があるといわれている。
 しかし、このペプチドワクチンも、研究に参加するには、HLAという白血球の型が合うことが条件となる。標準治療に見放され、1%の可能性にかけて、ようやくたどりついた研究室で、HLAの型が合わないために投与してもらえず、最後の希望を絶たれてしまう人がいる。
 このあまりに非情で理不尽な医療の壁を突き破るため、市民のためのがんペプチドワクチンの会が広く寄付を募り、それを元に県立医科大の治療学講座に資金を提供する。HLAの条件を緩和し、より多くの患者が臨床試験に参加できるようになる。
 人が当たり前に生きるための権利が奪われてはならない。私たちの小さな支援が医療を変えようとしている。(静)