お盆過ぎ、美浜町の89歳の男性が日高川町の86歳の男性宅を訪ねた。「行軍で重い武器を持たされました」「私は持ったことなかったです」「九江(中国)で捕虜になって米担ぎをさせられた」「私はタバコを支給してくれました」。2人は、当時を懐かしみながらこんな会話を繰り広げていた。
 8月9日付から15日付まで6回にわたり本紙が連載した「終わらざる夏~それぞれの戦争を訪ねて~」。筆者は第2回で日高川町の狩谷健造さんの戦争体験を紹介した。狩谷さんは、日本陸軍が昭和19年に中国大陸で展開した1号作戦の湘桂作戦に参加。34師団歩兵218連隊第2大隊第8中隊の一員として最前線で奮闘。湖南省営田での戦いで敵兵に機関銃で左足を撃たれ負傷した。終戦後は九江で捕虜になり、現在でも左足には銃弾の破片が残っている。
 狩谷さん宅を訪ねたのは、瀧本勇さんという戦争体験者。記事を読んでどうしても会いたくなったのだという。筆者が2人を引き合わせた。瀧本さんは狩谷さんと同じ218連隊。ただ第1大隊第2中隊で2人は面識はなかった。瀧本さんは狩谷さんの数カ月後の入隊で、暗号解読に優れ、連隊本部で活躍した。狩谷さんの後を追う形で中国大陸を南進、桂林まで行ったという。
 国のために危険を顧みずに体を張った狩谷さんと頭脳で貢献した瀧本さん。面識はなくフィールドは違えど、同じ戦地だったことから親近感がいっぱい。遠い記憶を呼び戻しながら当時の様子や心境など語り合い、花を咲かせ、戦争の愚かさ、平和の尊さをあらためてかみしめていた。いまの平和の礎を築いた先人たちの思い。深く胸を打った夏の午後だった。   (昌)