独裁者、独裁国家と聞くと、指導者が自らを批判する勢力を力でねじ伏せ、国民は自由を奪われ、貧富の格差が大きいといった印象があるが、歴史を振り返ると、独裁は手法こそ荒いが混乱の世を統一、一気に経済を立て直すといった功の部分も確かにある。

 中国で北京モーターショーが始まった。今回は部品メーカーも含め約1500社が出展、300台近くの新エネルギー車が展示されている。トヨタ、日産、マツダなど日本のメーカーも新型EVを公開、販売に乗り出すが、中国の安さを売りにしたEVに押され苦戦しているという。

 中国の自動車輸出台数は昨年、ウクライナ問題で市場から西側企業が撤退したロシア向けを大きく伸ばし、日本を抜いてトップに立った。政権は不動産バブル崩壊後、経済回復の切り札としてEVの育成に力を入れてきたが、昨年は補助金打ち切りの駆け込み需要と日本や米国のメーカーとは異なる国(ロシアやアフリカ、中南米の新興国)が受け皿となって大きく躍進したといわれている。

 これも偉大な指導者の功績として世界に喧伝されているが、中国では市場拡大のための補助金支給が需要に見合わぬ過剰生産を招き、結果的に広大な空き地に売れない新車が大量に廃棄される「EVの墓場」があちこちにできて環境問題となっている。この計画・成長率至上のデタラメな経済政策はもはやお家芸ともいえる域で、ダウンタウンの傑作コント「世界一位の男」を思い出す。

 独裁は政策の決定、その実行力とスピードで国を立て直すことはできても、決定権を握る指導者に国民の幸福を願う心、継続して政治と経済を安定させる力がなくてはならない。華やかなモーターショーに独裁の光と影がよく見える。(静)