現在、『青い壺』が時代を超えたベストセラーになっている有吉佐和子の代表作の一つです。どろどろした人間模様を描いた作品、歴史を題材にした作品など、さまざまな分野にわたり数々の名作を残していますが、綿密な取材に基づき、現代社会にするどいメスを入れた作品も数多く残しています。『複合汚染』はその代表的作品。1974年から75年にかけて新聞連載され、大きな反響を呼びました。書籍は同年4月に上梓。高度経済成長期から問題視されていた公害や環境汚染についてかなり挑戦的な視点で描かれており、環境問題を考える書として、今もなお多くの人に読み継がれています。

 水俣病で問題視された有害物質の水銀について、2013年に「水銀に関する水俣条約」が採択され、水銀および水銀を使用した製品の製造と輸出入を規制する国際条約が発効されました。本書では昭和30年代当時、水銀が含まれた農薬散布も盛んに行われていたとあり、他先進国に比べて水銀農薬の使用量が圧倒的だというデータも示されたりしています。有吉氏の問題への探求心もそうですが、日本という国を何とかしたいという熱量すら伝わってくるものがあります。

 タイトルの複合汚染は学術用語で、2種類以上の毒性物質による相乗作用が原因で起こる影響を指します。本書の言葉を借りるなら「排気ガスで汚染された空気を呼吸し、農薬で汚染されたご飯と、着色料の入った佃煮を食べる――」といった具合。そのような環境の中、日々生活する我々の身体に蓄積していくことの恐ろしさについて警鐘を鳴らしているのは、この時代にはかなり貴重な本だったのだと推測します。 

 複合汚染の結果が分かるには約50年かかると書いてありました。ちょうど50年が経った現在、今のこの社会を見て、筆者はどう感じているのでしょうか。(鞘)