あなたは誰かのために何かをしたことがありますか? またあなたは、誰かからあなたのために何かをしてもらったことがありますか? そしてそれは文学として。

 ここにあるのは、誰かのためにではなく、あなたのためだけに作られた短歌なのです。歌人の木下龍也が、全国から寄せられた読者からの手紙に応えた短歌集です。

 幾つかを紹介します。

「まっすぐ生きたい。それだけを願っているのに、なかなかできません。まっすぐ生きられる短歌をお願いします」

「まっすぐ」の文字のどれもが持っているカーブが日々にあったっていい

 「お題は緑色かワンピース、もしくはその両方でお願いします。昨年の夏に失恋してから、大好きな緑色のワンピースを買いました。まだ見せたい人は見つからないけれど、またいつか」

ひとり占めさせてあげますとびきりの緑のワンピースのわたしを

「先日、入籍しました。コロナ過で式や同居もすぐには出来ず、憂鬱になる日もありますが、前向きに乗り越えたいと思います。楽しい夫婦生活でお願いします」

山を越え「ふう」と漏らしたため息にあなたが「ふ」って笑いを添える

 「私の名前の『さくら』でお願いします」

さくらって呼ばれるたびに突風であなたへ散ってしまいたくなる

「東京に来て、友達もあまりなくて、仕事も慣れず、一人暮らしも初めて。何より大好きな彼氏と会えないことがすごく寂しく、拠り所がありません。救いとなる短歌をください」

方言にときどき混じる東京の言葉をきみが笑ってくれる

 最後に詩人の谷川俊太郎さんからのお願いが。

「十八歳から詩を書き始めいつのまにか九十歳になってしまいました。こんな私に短歌をお願いします」

詩の神に所在を問えばねむそうに答えるALL around you

 いかがでしょう? あなたもあなたのための短歌を作ってみませんか?(秀)