島国の日本人はいまいちピンとこないが、欧米では増加・流入が止まらない移民・難民の受け入れ問題が大きな政治の論点となっており、過激な政策を打ち出す急進右派政党が躍進している。

 オランダでは昨年、大統領再選を目指す米国のトランプ氏と同様、移民流入阻止の強硬策を訴え、反EU、反エリート、自国ファーストで支持を集めた極右の自由党が総選挙でまさかの第一党となった。

 こうした動きの背景には、ロシアのウクライナ侵略以降のエネルギー価格の高騰、EU内を行き来する移民・難民の増加、失業率の上昇、治安悪化への懸念などがあり、国民の不安と怒りに迎合するポピュリズムが加速している。

 夏目漱石が五高の教師時代、英国に留学し、言葉や習慣の違いに神経をすり減らしたというのは有名な話。帰国後、「英国紳士の間にあつて、狼群に伍する一匹のむく犬の如く、あはれな生活だった」と振り返っている。

 漱石の死から100年以上が過ぎたいま、世界は多様性を尊重するグローバル社会を目指しながら、移民・難民問題はさらに混迷を深めている。欧州はもはやEU内で支えきれず、不法入国者の扱いが安全保障上の脅威にもなっている。

 文化、言語、宗教、習慣が違う人種間には越えがたい壁があり、地域でその数が増えると必然的に自分たちのコロニーが生まれる。周辺の人々は不安や警戒心を抱くが、それは「わからない」ものに対する気持ち悪さであって差別ではない。

 日本もいずれこの問題に直面する。大切なのは互いを知り、違いを認め、尊重し合う寛容の精神。口でいうのは簡単、とてつもない時間とさまざまな困難を伴うだろうが、日本人の生き方を失わなければ、乗り越えられそうな気もする。(静)