タイトルは「幽霊文字」と呼ばれる、国が規定した「JIS基本漢字」に含まれる典拠不明の漢字のJISコード番号から。まさに表紙に描かれているこの文字で、上に「日」、下に「非」と書くようです。

 物語は関連不明の不審死事件が連続して発生するのですが、その唯一の共通項は、遺体に5A73の文字のタトゥーシールが貼られていること。一体この文字は何なのか?誰が何のために?憶測に憶測を呼ぶストーリーは、予想もつかない展開にたどり着きます。人気番組「アメトーーク!」の読書芸人の回で、芸人と書店員の2足のわらじを履く芸人〝カモシダせぶん〟が、これはおもしろい!と熱弁していた作品。文字と密接に仕事をしている記者として、これは読んでおかなければと手に取ってみました。

 あらすじ 警視庁刑事部の捜査員山本と早川は、謎の幽霊文字(5A73)のタトゥーシールが貼られた屍体が監察医務院に運ばれてくるのを確認する。タトゥーシールが貼られた屍体が確認されたのは4例目。初めは二十歳の大学生の男性、次に22歳の公務員女性、次に39歳の訪問販売員の女性。そして今回の38歳の運送業の男性。彼らの関連性は不明。捜査員2人はタトゥーシールは自殺志願者のあいだで密かに流行している何かのおまじないなのかもしれないと推測する。5A73の文字の意味は何か、翻弄されながらも捜査は進められるが、ある日捜査は打ち切りになったと告げられる。そして捜査員2人は韮澤という若者と接触し、韮澤から5A73についての仮想を聞かされる――。

 最終章、一気に場面転換。作者の詠坂氏が登場し、韮澤と2人で事件について答えを導いていきます。結論は幽霊が憑りつき人々を死に至らせた、というものに落ち着くのですが、最後に急に作者が登場するのは予想外。今までにない読書感覚を味わえました。(鞘)